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JCR Growth Report
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JCR Growth Reportは、JCRファーマ株式会社が2020年11月から発行している会報誌です。医師による座談会の内容、臨床情報、学術情報の提供を通じて、成長障害を中心とした小児内分泌分泌領域に関する最新情報をお届けしています。

成長障害疾患分野成長曲線利用までの課題と
それを乗り越える方策

JCR Growth Report特別座談会「第4回FRONTIERS TALK」より ③

参加医師

  • 日本赤十字北海道看護大学 伊藤善也先生/きのしたこどもクリニック 木下英一先生/長崎大学 伊達木澄人先生(司会)/産業医科大学 山本幸代先生 (五十音順)

2021年8月にJCR Growth Reportの特別座談会「第4回 FRONTIERS TALK」が開催され、学校保健のエキスパートである4人の先生方が学校保健における成長曲線の活用状況や今後の課題などについて活発に議論を交わした。
WEBサイト「Growth Hormone Pro」では、この特別座談会での議論の内容を3回に再編集してお届けする。第3回のテーマは「成長曲線利用までの課題とそれを乗り越える方策」。校務支援ソフトの均一化や、受診勧奨基準の統一、小学校就学前の成長データのシームレスな活用などの課題を紹介していただくとともに、将来展望を語っていただいた。

ポイント

  1. データ管理ソフトの均一化、受診勧奨基準の統一などが重要
  2. 出生後から就学までのデータも活かすことで、より早期の疾患見極めが可能
  3. 成長曲線の作成・活用には①受診勧奨基準の決定、②医療機関リストの作成、③紹介状の様式の作成 といった医師会のサポートが肝要

校務支援ソフトの均一化と、
出生以降のシームレスなデータ活用が必要

成長曲線を学校で利用するためには、様々な課題がある。その一つが健診データを管理するためのソフトウエアの均一化だ。現在総務省や業界団体が中心となり、保健業務に限定せず、学校業務全体を一つのソフトの中で処理する統合型校務支援ソフトの開発と普及を進めている。

「5年後、10年後といった近い将来には、自動で成長曲線が描ける時代が必ず来ると考えています。そうなれば、思春期早発症や成長が止まった児童・生徒を拾い上げるプログラムが実装され、現在のような専門医が判定しなくてはならないという負担が軽減されます。これが標準化されて全国である程度同じレベルで判定できるようになることを望んでいます」と日本赤十字北海道看護大学の伊藤善也先生は期待を語った。

これについて産業医科大学の山本幸代先生は、北九州市での現状を次のように話した。「北九州市ではすべての学校に校務支援システムが導入されていますが、全健診データとは別に成長曲線を入力しなければならないので大変でした。しかし昨年度からは、校務支援システムに毎学期の身長・体重データを入力すると、教育委員会にデータが集約され、まとめて判定する形になり、成長曲線の作成、受診勧奨が早くできるようになりました。このように、成長曲線作成には、教育委員会が校務をサポートする体制がないと難しい面があります」(山本先生)。

「ソフトが学校により異なることも混乱の一つになっています。北九州市のように統一した方法があると効果的です。それが全国レベルで均一化するとより普及率が上がるかもしれません」と司会の長崎大学の伊達木澄人先生は述べた。

「学校保健にとらわれないpersonal health recordが必要です。時代の趨勢は、生まれたときから成人に至るまでのデータを連結して自分で管理しようという方向にあるので、校務支援ソフトもそのなかの一部として成人までつなげることが大事だと考えます」と伊藤先生は加えた。

「特に現状で問題なのは、母子手帳や幼稚園・保育園のデータが活かされていないことです。小学校1年生では入学時の1点しかデータがないので、線ではなく点での判断になります。せっかく多くの過去のデータがあるのですから、それらをシームレスに統合して点から線にしていくことが大事なポイントではないでしょうか」と、きのしたこどもクリニックの木下英一先生は指摘した。

「実際、当院でも小学校低学年で脳腫瘍と診断されたものの、幼稚園のデータを使っていればもっと早く診断できていた成長低下の例や、幼稚園のデータでは明らかに成長率が上がっている思春期早発症であるのに、小学校低学年で受診した例などがありました。より早く疾患を見極めるためにも、今後はぜひ幼稚園のデータも一緒に取り込めるようなシステムができてくるとよいと思います」と伊達木先生。
これに対して伊藤先生は、「成長率上昇と1Zスコアの上昇を診たときに引っかかるというシステムだと、実際の受診時にはすでに月経が始まっている女子がいます。それだけでは思春期早発症を全部拾い上げるのは難しいという印象を持っています」と述べた。

養護教諭や保護者の理解や認識を高める
啓発活動も必要

これまでの議論の中で、成長曲線を学校で利用するにあたっての課題として、ソフトの均一化の必要性、統一された受診勧奨基準がないこと、小学校低学年児童では利用できるデータが少ないこと、学校医の過負担などが挙げられた。

このほかの課題として「われわれ医師と養護教諭との認識が若干乖離していると感じています。たとえば医師が何気なく2SDとか1SDアップなどといっても、養護教諭は理解できていません。さらに、それ以上に認識の乖離があるのが保護者です。医師、養護教諭、保護者の間で同じ言葉に対する理解度にかなりの差があることを認識しておかなければいけません。それを啓発するようなパンフレット等があればよいと思います」と伊藤先生は話した。

実際、説明用のマニュアルを作っている北九州市では、現在マニュアルのバージョンアップを図っているという。また、関係者間での理解や認識を深めるためのその他の方策についても山本先生は次のように紹介した。「説明用マニュアルは、現在のものをさらにわかりやすくするための改訂を進めています。それに加え、要望があったときには、毎年行われる養護教諭の勉強会で早期診断につながった事例をフィードバックしています。さらに、前年の受診結果を集計して報告書を作成し、教育委員会を通して全ての学校に配布しています。成長曲線を利用していない他の地域にも情報を共有するシステムが必要ではないかと感じています」(山本先生)。

成長曲線の利用には、中心となる小児内分泌科医が地域にいるかどうかも重要なポイントだ。「必ずしも小児内分泌科医だけなく、みんなで取り組む必要があります。ただ、治療に結びつく疾患で一番多いのが内分泌疾患ですから、地域の小児内分泌科医がリーダーシップをとって旗振りしていかないと、学校健診での成長曲線の有効利用を進めていくのは難しいと感じています」と木下先生は語った。

成長曲線作成後の対応の充実なしには
真の活用はできない

九州では、各県の医師会が主体となった九州学校検診協議会が30年ほど活動を続けている。これは九州・沖縄地区で格差のない健診を行うシステムを構築するための組織であり、専門部会の一つとして小児生活習慣病予防健診部会がある。その部会で成長曲線の導入について検討することになったことを契機に、成長発達・小児生活習慣病等部会という専門部会に改名された。まず現状を把握するため、令和元年(2019年)に九州・沖縄地区の全ての小中学校、特別支援学校に対して成長曲線の活用の現状についてのアンケート調査が行われた。

「成長曲線の作成率は県によって格差があり、最も作成率が高いのは長崎県でほぼ100%であるのに対し、福岡県では約5割、大分県で約3割でした。さらに県内の都市間でも格差がありました」と山本先生は調査結果を紹介した。

さらに、アンケートでは成長曲線を作成しても受診勧奨などの事後対応が行われていない自治体があることや、成長曲線を作成しない様々な理由も明らかになった。「成長曲線を作成した地域の約8割は『受診勧奨』『注意喚起』『学校医への相談』のうちいずれかの事後対応を行なっていましたが、約2割は何もしていませんでした。一方、作成していない自治体にその理由を聞くと、『入力作業が難しい』『校務が忙しい』が多く、そのほか『受診勧奨の基準がない』『紹介するにしても様式がない』『受診勧奨する医療機関のリストがない』というものがありました。長崎県のように、判定委員会が受診勧奨する生徒を判定して受診可能な医療機関のリストを準備していたり、北九州市のように、受診勧奨の基準を決めて学校で児童的に紹介できるようにして医療機関のリストも医師会で作っていたりするなど、学校での事後対応がしやすい体制を整えておかないと、成長曲線の作成だけ進めても真の活用は難しいと思います」と山本先生は指摘した。

専門部会では、今後長崎県や北九州市の方式の良いところを取り入れ、少しずつ各県の事情に合わせて進めていけるような提案をしていく。「成長曲線の作成・活用には医師会のサポートが重要で、そのサポートの内容は①受診勧奨基準の決定、②医療機関リストの作成、③紹介状の様式の作成の3つがポイントです。できれば九州・沖縄地区で統一した様式を作っていこうと考えています」と山本先生は今後の展開を語った。

伊達木先生は、「普及率が低いところをいかに上げるか、それには山本先生が紹介されたやり方がとても良い方法だと思います。それを地域の小児内分泌科医が中心となって、医師会や教育委員会と連携をとりながらやっていくのが普及率向上の方法になるのではないでしょうか。スクリーニング基準も含め統一されたソフトや実施方法があれば、より利用しやすくなるでしょう。また先生方が指摘された通り、啓発も必要です。全国の小中学校、特別支援学校が同じ条件でスクリーニングできる時代が来ることを期待したいと思います」と将来への見通しを語った。

  • 伊藤善也 先生

    伊藤善也 先生

    日本赤十字北海道看護大学

  • 木下英一 先生

    木下英一 先生

    きのしたこどもクリニック

  • 伊達木澄人 先生

    伊達木澄人 先生

    長崎大学

  • 山本幸代 先生

    山本幸代 先生

    産業医科大学

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