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JCR Growth Report
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JCR Growth Reportは、JCRファーマ株式会社が2020年11月から発行している会報誌です。医師による座談会の内容、臨床情報、学術情報の提供を通じて、成長障害を中心とした小児内分泌分泌領域に関する最新情報をお届けしています。

内分泌分野遺伝性内分泌疾患における遺伝学的検査の保険適用と適用外検査の依頼

JCR Growth Report特別座談会「第3回FRONTIERS TALK」より ②

配信元:ステラ・メディックス

参加医師

  • 国立成育医療研究センター 深見真紀先生/浜松医科大学 藤澤泰子先生(司会)/神奈川県立こども医療センター 室谷浩二先生 (五十音順)

2021年3月にJCR Growth Reportの特別鼎談“第3回 FRONTIERS TALK”が開催され、小児内分泌のエキスパートである3人の先生方が遺伝性内分泌疾患の遺伝子解析について活発に議論を交わした。
WEBサイト「Growth Hormone Pro」では、この特別鼎談での議論の内容を3回に再編集してお届けする。第2回のテーマは「遺伝性内分泌疾患の遺伝学的検査の保険適用と適用外検査の依頼」。最新の遺伝学的検査の解析技術について紹介するとともに、現在保険適用になっている小児内分泌疾患の遺伝学的検査や、保険適用外の検査の依頼の仕方などについて解説してもらった。

ポイント

  1. 遺伝学的検査の解析技術の進歩は著しく、小児内分泌関連では約20種の疾患が保険適応になっている
  2. 保険適応外の遺伝学的検査のうち遺伝子解析研究の費用のほとんどは研究者の支払となることが多い
  3. 遺伝子解析を行っている研究機関を探すには、日本小児内分泌学会のホームページが参考になる

小児内分泌関連では約20種の疾患が保険適応

近年、遺伝学的検査が保険適応になっている遺伝疾患が増えてきた。司会の浜松医科大学・藤澤泰子先生は、まず、内分泌疾患の中で保険適応となっている疾患にどのようなものがあるかを聞いた。

神奈川県立こども医療センターの室谷浩二先生は次のように解説された。
「2016年度診療報酬改定までは、Gバンド法などの染色体検査やFISH法の一部、DNAプローブのハイブリダイゼーションと連結しPCR増幅技術を組み合わせて数十カ所の微細な遺伝子内部領域を調べるMLPA検査やPCR検査の一部、ミトコンドリア点突然変異の一部の変異といった限られた遺伝学的検査のみが保険適応となっていました。その後、遺伝学的検査への要望の高まりを受け、2018年度と2020年度の診療報酬改定では、遺伝学的検査が保険適応となる疾患が大幅に拡大されました。ただし、算定要件が細かく、以前は3,880点のみだった保険点数も、処理が容易なものは3,880点、処理が複雑なものは5,000点、処理が極めて複雑なものは8,000点と、検査の困難度により点数に差が設けられました」。

保険適応になっている遺伝学的検査は、第1回「遺伝性内分泌疾患における遺伝学的検査の実際」で説明した「かずさ遺伝子検査室」のホームページの「遺伝学的検査リスト〔保険・保険点数〕」に、疾患リストが保険点数とともに掲載されている。内分泌疾患は、「※その他」のリストの中に記載されている。

遺伝学的検査が保険適応となっている疾患のうち、小児内分泌が関係する約20種類の疾患リストを図に示した。

遺伝学的検査が保険適応となっている小児内分泌疾患
公益財団法人 かずさDNA研究所 かずさ遺伝子検査室
遺伝学的検査リスト」より抜粋、加筆

「高身長を主訴とするマルファン症候群は、複数の遺伝子が関与する複雑な検査であるため、保険点数が8,000点になっています。また、最近治療法が確立された低ホスファターゼ症、POR(cytochrome P450 oxidoreductase)異常症のひとつであるアントレー・ビクスラー症候群、過成長などを呈するソトス症候群、副腎皮質刺激ホルモン不応症、DAX-1異常症に代表される先天性副腎低形成症などがあります。その他、中枢性性線機能低下症(カルマン症候群)を必発し、特異顔貌や難聴を呈するチャージ症候群、甲状腺機能低下症を呈するヤングシンプソン症候群や、高インスリン性低血糖を呈する歌舞伎症候群などがあります」と室谷先生。

加えて、室谷先生は、これらの疾患の遺伝子解析に関する留意点として、患者本人の検査に対しては健康保険が適応(3割負担、ただし公費助成があれば減免)されるものの、家族解析や保因者検査では保険適応外(100%実費負担)となることを挙げた。

遺伝学的検査における最新の解析技術

遺伝学的解析技術は、目覚ましい進歩を遂げている。藤沢先生は遺伝学的解析の新しい手法について、国立成育医療研究センターの深見真紀先生に聞いた。

先天性疾患において、遺伝学的異常の同定は、疾患の確定診断だけでなく、予後予測や治療法の選択、遺伝カウンセリングに役立ち、総じて医学の進歩につながるというメリットがある。遺伝学的異常の同定に用いられる解析技術には、①遺伝子異常を調べるシークエンス、②染色体異常を調べる染色体解析、③インプリンティング異常症が疑われる場合に行うDNAメチル化解析などがある。国内の遺伝学的解析の進歩は著しく、中でも①の技術である次世代シークエンス、②の技術であるアレイCGH、③の技術であるパイロシークエンスやMS-MLPAは急速に普及している。

臨床遺伝子診断に用いられる主な解析技術

「シークエンスでは、遺伝子を1個ずつ調べていた従来のサンガーシークエンスに代わり、今は次世代シークエンスが主流になっています。かずさ遺伝子検査室によれば、きちんとvalidation(妥当性を確認)した方法で行えば、サンガーシークエンスと次世代シークエンスの間に解析結果の差がないことが明らかになっています。ただし、次世代シークエンスに慣れていないケースでは、見落としやcoverage(同じところを何回重ねて読んだかの指標)が少ないという問題が起こることあるため、validationが非常に重要になります。その意味でも、かずさ遺伝子検査室で行われた次世代シークエンスの解析結果は信頼できると考えられます」と深見先生。実際、同検査室でvalidationしたものについては、原則的にサンガーシークエンスでのバックアップはせず、次世代シークエンスの解析結果のみを報告しているという。

「染色体解析では、Gバンド法などの核型解析やFISH法が主流ですが、最近ではより小さい染色体欠損や重複が検出できるアレイCGH(comparative genomic hybridization)法が実施されることが増えています。アレイCGH法は検査サンプルと正常なDNAを競合的に検査し、両者のDNAの量差から異常を判定する方法ですが、検査のリクエストが多いと聞いており、近いうちに保険収載される可能性があります」と深見先生は予想した。

インプリンティング異常症の検査として行われるDNAメチル化解析については、第1回「遺伝性内分泌疾患における遺伝学的検査の実際」の中でも紹介したように検査可能な施設が限られているという課題がある。「かずさ遺伝子検査室もDNAメチル化解析は実施していないので、受け皿づくりが必要です」と深見先生は語った。

保険適応外の遺伝学的検査を行いたい場合は
どうすればよいのか

では、保険適応外の遺伝学的検査を行いたい場合には、どうすればよいのか。先天性内分泌疾患の健康保険適用外検査には、臨床遺伝子検査と遺伝子解析研究がある。

表. 保険適応外の遺伝学的検査図

「臨床遺伝子検査」は、疾患発症との関連が明らかな「既知の疾患原因遺伝子」に対する検査のこと。衛生検査所や医療機関、研究室などで行われる。一方、「遺伝子解析研究」は候補遺伝子解析や網羅的解析などが含まれ、通常は研究室で実施される。遺伝子解析研究は倫理委員会に申請する必要があるのに対し、臨床遺伝子検査は患者さんの同意は必要だが、必ずしも倫理審査は必要ないという点が2者で大きく異なる。

「既知の疾患原因遺伝子」については、日本小児科学会が遺伝学的検査Q&A4)の8に、「遺伝子変異と疾患発症との関連を明らかにする研究結果があり、さらにその結果が他の研究者により確認されていることと、即ちピアレビューのある学術雑誌に複数の科学論文が掲載され、かつ論文等によりその関係が否定されていない」と定義されている。さらに、このような遺伝子の遺伝学的検査を実施する場合には、「必ずしも倫理委員会の承認を必要としない」とされている。

「このように、2つ以上の論文で証明されている遺伝子に関しては、疾患原因遺伝子と考えて倫理審査なしに検査できますが、論文が1報しかない場合には研究対象となるため、倫理委員会に申請する必要があります。ちなみに、アレイCGHと既知インプリンティング部位のメチル化解析は、臨床遺伝子検査と遺伝子解析研究の間に入ります。いずれの解析法も倫理審査の必要性については議論が分かれていますが、前述した通りアレイCGH法は保険収載する方向に進んでいます。また、既知インプリンティング部位のメチル化解析は研究としてのメリットはあまりないため、臨床遺伝子検査に位置付けた方が患者さんや研究者のメリットになるのではないかと思います」と深見先生は解説した。

検査にかかる費用については、「臨床遺伝子検査の場合は依頼者が負担することが多いものの、プロジェクトの一環で研究者が研究費で支払うこともあります。一方、遺伝子解析研究の費用は、ほとんどが研究者の支払いとなっています」と深見先生。

また、室谷先生は、「進行中の研究で、研究者が検体を集めていれば検査の費用は研究費で賄われます。研究を実施している施設を探して検査を依頼すれば、費用負担がなく検査が受けられます。これに対して検査会社に出す場合は、費用負担が発生するので、その費用を患者さんに全額お願いするか、ある程度研究費で賄うのかが問題になります。小さい子どもの親御さんは若い方が多いので、自己負担額は2〜3万円がギリギリのラインではないでしょうか」と語った。

保険適応外の遺伝学的検査を依頼するには
どうすればよいか

保険適応外の遺伝学的検査を依頼するにはどうすればよいのか。深見先生によれば、「臨床遺伝子検査は衛生検査所に依頼できる」という。かずさ遺伝子検査室の場合、ホームページの「遺伝学的検査リスト〔非保険・検査費用〕」のページに対象となる疾患名と検査費用のリストが掲載されている5)。

内分泌疾患では、日本小児内分泌学会がかずさ遺伝子検査室と連携して作成した、下記に示す8つの内分泌パネル検査がある。
1. 副腎機能低下症(21-OHD以外)
2. 成長障害
3. 46XY性分化疾患
4. 性成熟疾患
5. 下垂体ホルモン産生障害
6. 糖代謝異常(新生児糖尿病・MODY・低血糖症)
7. 卵巣機能不全
8. 尿細管性電解質異常症

これらの中から調べたい内分泌疾患の検査を手順に従って依頼。検査結果は保険診療の遺伝学的検査と同様に、原則60営業日以内に、日本小児内分泌学会・遺伝子診断委員会の簡単なコメントとともに返却される。検査費用は45,000円あるいは50,000円。「検査費用の支払者は特に規定されていませんが、患者さんが支払う場合には混合診療となる可能性があるため、配慮が必要です」と深見先生は指摘した。

深見先生は、こうした検査へのコメントを依頼される立場でもある。「自分で把握しているのは2017年から始まった内分泌パネル検査だけですが、全内分泌パネル検査を合わせるとこれまでに100件以上の依頼がありました。特に多いのは、46,XY分化疾患や糖代謝異常に対するものです」と深見先生。

一方、臨床遺伝子検査リストに検査したい疾患がない場合はどうすればよいのか。「その場合には遺伝子解析研究となり、解析を行っている研究室を自分で探すことになります。前述した通り、倫理委員会の承認も必要です。また、衛生検査所に比べると精度管理が不十分です。さらに、マンパワーの関係で結果が出るまでに時間がかかったり、研究費や研究テーマの変更のため、研究が中止されることもあります。このように、遺伝子解析研究は臨床遺伝子検査とは異なることを十分に認識する必要があるでしょう」と深見先生は注意を促した。

遺伝子解析を行っている研究機関を探すには、日本小児内分泌学会がホームページ内の会員専用のページ6)に遺伝子解析実施施設の情報を掲載しており参考になる。疾患名を選択すると、疾患ごとに検査内容や研究施設の連絡先、結果報告までの時間などが記載されている。

このほか、「国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究班で研究内容を紹介しているグループがあります。ただ、研究が途中で中止されることもあります。その点、日本小児内分泌学会のホームページは1年に1回リニューアルされているので活用しやすいのではないでしょうか」(深見先生)。

第3回では、遺伝学的検査の課題と今後の展望について3先生にお話しいただいた。

「第3回 FRONTIERS TALK」より③に続く

  • 藤澤泰子 先生

    藤澤泰子 先生

    浜松医科大学

  • 室谷浩二 先生

    室谷浩二 先生

    神奈川県立こども医療センター

  • 深見真紀 先生

    深見真紀 先生

    国立成育医療研究センター

五十音順

参考文献

  1. 公益社団法人日本小児科学会「遺伝学的検査Q&A」
    www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200225_iden_qa.pdf
  2. 公益財団法人 かずさDNA 研究所 かずさ遺伝子検査室「遺伝学的検査リスト」
    https://www.kazusa.or.jp/genetest/test_non_insured.html
  3. http://www.ac-square.co.jp/member/jspe/index.asp?patten_cd=12&page_no=26
    ※日本小児内分泌学会会員専用ページ内

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