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JCR Growth Report
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JCR Growth Reportは、JCRファーマ株式会社が2020年11月から発行している会報誌です。医師による座談会の内容、臨床情報、学術情報の提供を通じて、成長障害を中心とした小児内分泌分泌領域に関する最新情報をお届けしています。

内分泌分野SGA性低身長症で考慮されるべき思春期や他疾患の問題

JCR Growth Report特別鼎談「第2回 FRONTIERS TALK」より ②

配信元:ステラ・メディックス

参加医師

  • 金沢医科大学 伊藤順庸先生
  • たなか成長クリニック 田中敏章先生
  • 藤田医科大学 水野晴夫先生

2020年11月にJCR Growth Reportの特別鼎談「第2回 FRONTIERS TALK」がWEB開催され、小児内分泌のエキスパートである3人の先生方がSGA性低身長の治療戦略について活発に議論を交わした。
WEBサイト「Growth Hormone Pro」では、この特別鼎談での議論の内容を3回に分けてお届けする。第2回のテーマは「SGA性低身長症で考慮される思春期や他疾患の問題」。思春期の注意点である。

ポイント

  1. SGA性低身長症では思春期が若干早めにくる傾向があり、患者さんへの説明などの対応を要する
  2. 成長ホルモン分泌不全性低身長など他の成長障害の原因も踏まえてGH増量を判断する
  3. SGA性低身長症ではメタボリック症候群など代謝異常にも注意を要する

ここまでのGH製剤増量基準のとらえ方というテーマから、続いて伊藤先生は思春期の治療における注意点へと話題を移した。
伊藤先生の「SGA性低身長症では思春期が若干早めにくる傾向があることが知られていますが、思春期早発に対して何か対応をしていますか」という質問に対し、水野先生は治療の早い段階から、治療の全体の流れや治療中に起こりうるリスク、その対処法について情報共有するという診療スタイルを心がけていると答えた。
「思春期早発についても、思春期発来の時期が成人身長に影響するという認識を、治療を始める段階から持ってもらうようにしています。患者さんにとって、成人身長と二次性徴の関係を理解するのは容易ではないと思いますので、診察のたびに説明を繰り返しています」(水野先生)。
実際に思春期が早めに来た場合は、思春期早発症の治療も検討するが、早発の程度が軽ければ、「当初お話ししていたように、思春期が少し早く来てしまったけれども、これまでの治療でその分のcatch-upは十分に得られています。最終的に成人身長が改善するように全力を尽くします」と前向きな話をした上で、GH製剤のみの治療を継続していると述べた。
一方で田中先生は、SGA性低身長症において必ずしも思春期が早めに来るわけではないものの、治療開始時に「どれくらいの身長で思春期が来るかで成人身長が決まる」と、将来の見通しを先んじて説明するようにしているという。
「二次性徴が男児では9歳未満、女児では7歳6カ月未満で始まると中枢性思春期早発症と診断されますが、主症状発現以前の身長が標準身長の-1 SD 以下であれば、診断基準年齢を1歳高くした条件、すなわち男児では10歳未満、女児では8歳6カ月未満でLH-RHアナログ製剤が保険適用されます1)」(田中先生)
ただし、田中先生は、「思春期発来後、身長が一番よく伸びる成長率のピークまでにLH-RHアナログ製剤を投与すると、身長の伸びが妨げられます。そのため、思春期発来後すぐに投与するのではなく、成長率のピーク(骨年齢で男児13歳、女児11歳)ごろに投与を開始し、成長率の低下を緩徐にして成長が止まるまでの時間を稼ぐことにより、成人身長を改善するようにしています」とつけ加えた。

GH治療への反応が悪いケースへの対応

伊藤先生は、GHDとSGA性低身長症の両方の基準を満たす場合の対応に話題を進めた。成長科学協会の「SGA性低身長症ヒト成長ホルモン治療適応基準」2)では両方の基準を満たすときにはGHDに対する治療が優先される。
「GHDとSGA性低身長症ではGH製剤の用量が異なり、GHDの用量では十分な効果が得られない可能性がありますが、どのように対応すればいいとお考えですか」という伊藤先生の投げかけに対し、水野先生は「GH分泌刺激試験では偽陽性が出る可能性がある」と指摘し、「GHDを確実に除外するためにも、きちんと刺激試験を実施するべきだと考えます」と述べた。
また、「成長率が改善しない症例について、私自身は経験したことがないのですが、このようなSGA性低身長症児に最大用量までGH製剤を使っている場合はどうしていますか」という問いに対し、田中先生は「GH製剤を最大用量の0.47mg/kg/週まで使用した経験はありません。少なくともGH治療開始後1、2年の反応はいいです。3年以降、成長率が低下する症例は確かにあります」と述べた。
水野先生は「十分な改善が得られない症例は経験しています。その場合、初心に返って基礎疾患の見直しや栄養状態の見直しをするか、GH製剤を増量する余地があれば増量しています。実際にGHDの治療を行っていたものの、次第にタンパク尿が明らかとなり、低身長の原因がDent病であったと判断された症例も経験しています。何らかの基礎疾患が隠れていないか、スクリーニングの段階まで振り返って原因を探すようにしています」と話す。
この点について田中先生は、小食で体重増加が不良の患児はGHへの反応が悪い傾向があると指摘し、「しっかり食べさせるよう保護者への食事指導をしています。GH治療によって食欲が出て食べるようになるSGA性低身長症児は結構います3)」と述べた。

長期的な視野で代謝異常の有無を検討

代謝異常に関する留意点も意見が交わされた。
SGA性低身長症にGH治療が行われるようになってから10年以上が経ち、すでに治療を終えた患者も現れた。
伊藤先生は、「低体重で出生したSGA児はDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)で提唱されているように、将来メタボリック症候群を発症するリスクが高いことが指摘されています。先生方は治療中にDOHaDを意識して何らかのアプローチをしていますか」と質問した。
水野先生は、「小児期に注意していることとして、SGA児の自然歴でも問題になるのですが、早発アドレナルキに留意しています。実際にGH治療中に早発恥毛を来した女児を経験しており、成人身長にも関係してきますので、骨年齢やDHEA-Sの上昇に気をつけています」と述べた。GH治療を通じ、糖代謝異常やメタボリック症候群の発症がないか、血糖値やBMI、血圧、コレステロール、体脂肪などもチェックするようにしているとも説明した。
田中先生は、「DOHaDは基本的に、SGAで生まれて乳幼児早期にcatch-upし、そこで肥満になると将来メタボリック症候群を発症するリスクが高くなる、という概念です。そういう意味では、乳幼児早期にcatch-upしなかったSGA性低身長症児におけるメタボリック症候群の発症リスクはそれほど高くはないのではないかと考えています」と指摘した。
さらに、田中先生はGH治療がメタボリック症候群のリスクを高めるか否かを検討した臨床試験に言及した。これは、GH治療を7.3年行ったSGA性低身長症患者(治療群)を治療中止後6.5年フォローアップし、2型糖尿病やメタボリック症候群の危険因子への影響を、GH治療を行わなかったSGA性低身長症患者(未治療群)と比較した臨床研究である4)。
田中先生は、「同研究の治療群では、GH治療中、空腹時血糖値や空腹時インスリン値の上昇がみられましたが、治療中止後には治療前のレベルに戻りました。また、治療群における治療中止後6.5年の2型糖尿病やメタボリック症候群のリスクは未治療群と差がなく(表)、長期的なGH治療は、治療を受けた若年成人における2型糖尿病やメタボリック症候群の発症リスクを高めないことが示されています」と述べた。

表 GH治療群と未治療群におけるメタボリック症候群の構成要素(NCEP-ATPⅢ診断基準)

「ただし、 SGA児はベースにインスリン抵抗性を有し、日本人は外国人より痩せている段階で糖尿病になりやすいと言われているため、糖尿 病には注意する必要があると考えています」(田中先生)。
GH治療では長期的な視野を持つことも重要である。

「第2回 FRONTIERS TALK」より③に続く

  • 伊藤順庸 先生

    伊藤順庸 先生

    金沢医科大学

  • 田中敏章 先生

    田中敏章 先生

    たなか成長クリニック

  • 水野晴夫 先生

    水野晴夫 先生

    藤田医科大学

五十音順

参考文献

  1. 間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂): http://www.acromegaly-center.jp/medical/pdf/treatment_guidance.pdf. 2022/03/28.
  2. 小児成長ホルモン治療適応判定:SGA性低身長 ヒト成長ホルモン治療適応基準: https://www.fgs.or.jp/business/growth_hormone/treatment_decision/sga/chart.html. 2022/03/28.
  3. 高橋亮, 他. SGA性低身長児における成長ホルモン治療効果の心理社会的特徴に関する検討: 17(2), 77-83. 成長会誌. 2011.
  4. Dijk MV, et al. J Clin Endocrinol Metab. 92(1): 160-165, 2007. (PMID: 17062774)

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