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JCR Growth Report
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JCR Growth Reportは、JCRファーマ株式会社が2020年11月から発行している会報誌です。医師による座談会の内容、臨床情報、学術情報の提供を通じて、成長障害を中心とした小児内分泌分泌領域に関する最新情報をお届けしています。

成長障害疾患分野低身長を来す疾患を見逃さない鑑別疾患の知識

JCR Growth Report特別座談会「第1回 FRONTIERS TALK」より ②

配信元:ステラ・メディックス

参加医師

  • 金沢医科大学 伊藤順庸先生
  • 大阪母子医療センター 川井正信先生
  • 長崎大学 伊達木澄人先生
  • 北海道大学 中村明枝先生
  • 新潟大学 長崎啓祐先生(司会)
  • 浜松医科大学 藤澤泰子先生

2020年8月にJCR Growth Reportの特別座談会「第1回 FRONTIERS TALK」がWEB開催され、JCR Growth Reportの世話人で小児内分泌のエキスパートである6人の先生方が低身長診療の現状について活発に議論を交わした。
WEBサイト「Growth Hormone Pro」では、この特別座談会での議論を3回に分けてお届けする。第2回は「注意すべき鑑別疾患」。低身長を来す疾患を見極める診断プロセスも含めて意見が交わされた。

ポイント

  1. 低身長診療においては、原因疾患が見逃されている事例もあり、鑑別疾患の把握が大切になる
  2. 問診や身体観察、検査では、保護者からの聴取やプロポーション測定などが診断に有効となる
  3. 骨系統疾患や奇形症候群などの診断に不明がある場合は躊躇せず専門医に相談をしている

低身長を指摘されて受診した患者の鑑別疾患

低身長を来す疾患は多岐にわたる。特発性低身長やSGA(Small for Gestational Age)性低身長のほか、栄養不良や吸収障害、炎症性腸疾患や慢性腎不全など慢性疾患、糖原病やムコ多糖症のような先天代謝異常症、内分泌疾患や骨系統疾患、虐待などが考慮すべき鑑別疾患となる。

「先生方は、低身長を主訴に受診した患者さんの中からさまざまな基礎疾患を見つけた経験があると思います。そうした経験から、日常診療で見逃さないように注意しているのはどのような疾患ですか」。司会を務める新潟大学の長崎啓祐先生はこう問いかけ低身長診療で特に注意すべき鑑別疾患について聞いた。

北海道大学の中村明枝先生は骨系統疾患やクローン病、MELAS症候群(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)のほか、Noonan症候群(ヌーナン症候群)などの奇形症候群を挙げた。また、大阪母子医療センターの川井正信先生はNoonan症候群や骨系統疾患のほか、ミトコンドリア病や低ホスファターゼ症も見逃さないように努めていると話した。

同じようにNoonan症候群に気をつけているという長崎大学の伊達木澄人先生は、成長ホルモン(GH)治療の適応を考慮していると述べ、このほか気をつけている鑑別疾患について説明した。

「Noonan症候群は、成長ホルモン治療の適応になって以降、頭の片隅に置くようにしています。SHOX異常症やACAN異常症などの遺伝性疾患も特発性低身長の中に隠れていることがあるため、注意しています。また、2次医療機関でSGA性低身長症が見逃されているケースを何度か経験しています。一般小児科医や新生児科医へのさらなる啓発の必要性を感じています」(伊達木先生)

一方で浜松医科大学の藤澤泰子先生は、橋本病も比較的頻度が高く、糖原病やBartter症候群(バーター症候群)が見つかった例もあると述べた。

金沢医科大学の伊藤順庸先生は注意を払う点として虐待にも触れた。

「私は時節柄、虐待に気をつけています。虐待の場合、身長SDスコアが-2 SD前後であることが多く、保護者が検査を渋るといった傾向が見られます。また、珍しかった症例として、Tanner分類(タナー分類)5度で初経遅延のあった女児が最終的にRokitansky症候群(ロキタンスキー症候群)であった経験があります」(伊藤先生)

低身長を来す疾患を
見つけるための問診の注意点

続いて長崎先生は、低身長を来す疾患を見つけるために臨床で求められる問診の注意点について先生に質問した。

まずは、川井先生が保護者の声にヒントがあると解説した。

「Noonan症候群を見つけるためにも、妊娠中の頸部の肥厚については聞くようにしています。また、プロポーションに異常はなかったのですが、保護者の『歩き方がおかしい』という訴えで全身骨X線撮影したところ、骨系統疾患が見つかった事例もありましたので、保護者の訴えに耳を傾けることは大事だと思っています」(川井先生)

一方で、鑑別疾患に関連して虐待に気をつけていると話した金沢医科大学の伊藤先生は、虐待が疑われるケースにおいては検査に消極的であったり、こどもに高圧的であったりする保護者の態度がヒントになると指摘した。

伊達木先生は遺伝性疾患を見極めるため問診の中では家族歴の聴取を重視しているなどと述べた。

「私は、SHOX異常症やACAN異常症などの遺伝性疾患を見つけるため、家族歴を詳細に聴取するよう心掛けています。低身長を伴う症候性疾患の可能性もあるため、発達の評価は注意深く行っています」(伊達木先生)

注意すべき身体所見

次に長崎先生は身体観察の注意点を聞いた。これについて、中村先生は骨系統疾患の見逃しを防ぐため、プロポーションの測定が重要という考えを示した。

「骨系統疾患を見逃さないため、プロポーションの測定は重要だと考えています。初診時は必ず測定しますが、その後は定期的には測定しないことが多いと思います。しかし、他院から特発性低身長で紹介されてきた患者さんで、Arm Spanを測定したところ、体幹短縮型低身長であり、全身骨X線撮影により、X連鎖性遅発性脊椎骨端骨異形成症の診断につながった症例を経験したことがあります。成長とともにプロポーションの異常が顕在化してくる骨系統疾患もあるため、先入観を持たずに診察することは重要だと思います。プロポーションの評価として、当院には座高計がないため、下節長を測定し、上/下節比を算出しています」(中村先生)

これに対して、長崎先生は、「実際に軟骨低形成症でもArm Spanに異常がなく、下肢が短いケースがありますので、下節長の測定は重要だと思いますが、測定が容易ではありませんね」とコメントしたところ、中村先生は身体観察の工夫を説明した。

「上下の服のサイズの違いから下節長の異常が見つかることがあります。母親に上下の服のサイズが同じか、問診で聞いてもいいかもしれません」(中村先生)

そのほか注意している身体所見として、奇形症候群の鑑別につながる「顔貌」、LH/FSH分泌不全を伴う複合型下垂体ホルモン分泌不全を視野に入れた「男児の外性器(マイクロペニスの所見がないか)」の診察、さらには虐待のサインとして「不自然なあざ」「口腔の衛生状態」「服装の汚さ」が挙げられた。

検査値で気をつけたいポイントは?

続いて長崎先生は低身長で受診した患者に対して行う検査について解説し、気をつける点について述べた。

「生化学検査では、低ホスファターゼ症の見逃しを避けるためにALP(アルカリフォスファターゼ)の値を見ますし、Bartter症候群やGitelman症候群(ギッテルマン症候群)では、電解質の異常が見られます。また慢性炎症ではCRPが高値を示します。腎機能検査についても、慢性腎不全性低身長症がGH治療の適応になっていますので、必須の検査と言えます」(長崎先生)

議論ではそのほか重要と考える検査内容として、栄養状態を評価するためのプレアルブミンや亜鉛、25-OHビタミンDが挙がった。

長崎先生は、MELASなどのミトコンドリア病を鑑別するための乳酸やピルビン酸の測定について説明した。

「MELASなどのミトコンドリア病の鑑別は乳酸やピルビン酸で行います。当院で尿細管性アシドーシスが見つかった低身長患者がいましたので、それ以降血液ガス分析を行っています。乳酸値は、血液ガス分析での乳酸値で代用しています」(長崎先生)

身体観察に関連するが、ミトコンドリア病や甲状腺機能低下症では背中の多毛が見られるので、身体所見として気をつけるべきだという意見も出た。

低身長の程度が強いケースでは全身骨X線撮影を実施の上、骨系統疾患が疑われる場合は専門医や専門組織に相談するという方針も述べられた。

「骨系統疾患の場合、私も個人的に専門医に相談していますが、骨系統疾患コンソーシウムでもアドバイスがもらえます。軟骨異栄養症の治療適応判定として、成長科学協会にレントゲンを送付すると評価してもらえます」(藤澤先生)

低身長診療においては、GH治療の適応になるTurner症候群の診断のための女児に対する染色体検査は重要になる。伊達木先生は染色体検査における注意点を説明した。

「染色体検査ではトリプルXなどのIncidental Findings(偶発所見)の可能性もありますので、患者さんへの事前の説明は重要と考えています。GH治療の適応であるTurner症候群の可能性があり、鑑別のために行う検査であること、Turner症候群以外の疾患が見つかる可能性もあることを、検査前に説明するようにしています。(男児の場合に行うかという問いに対しては)ルーチンではやっていません。患者さんによりますが、複数の奇形を認めれば検査することが多いです」(伊達木先生)

FISH検査は、SHOX異常症の診断では重要になるが、家族性が疑われても、プロポーションや骨の異常がないときにはSHOX異常症を疑ってFISH検査を行うかは難しいところだが、長崎先生は親のArm Spanは手掛かりとして実施を決めるという。

「常染色体優性遺伝形式の家族歴で親のArm Span が短いときには、本人にSHOX異常症を疑う所見がなくてもFISH検査をしていいのではないでしょうか。ただし、FISH検査ではSHOX異常症の半数程度しか異常が見つからないことに留意する必要があります」(長崎先生)

奇形症候群を疑った場合にどのように判断するかが難しいケースはある。川井先生、伊達木先生、中村先生は専門家と連携するという。

「私は、地域のDysmorphology(異常形態学)の専門医に相談することが多いです」(伊達木先生)

「当院では、遺伝診療科と連携し、遺伝カウンセリングや遺伝学的検査を行っています」(川井先生)

「週に1回大学病院に来られる遺伝科の先生に、患者さんの顔貌を顔写真で診てもらい、アドバイスをいただいています」(中村先生)

奇形症候群に該当するか疑問が生じた際には、地域で活動する身近な専門家を探して相談するのがよいと、長崎先生も考えを述べた。

「第1回 FRONTIERS TALK」より③に続く

  • 伊藤順庸 先生

    伊藤順庸 先生

    金沢医科大学

  • 川井正信 先生

    川井正信 先生

    大阪母子医療センター

  • 伊達木澄人 先生

    伊達木澄人 先生

    長崎大学

  • 中村明枝 先生

    中村明枝 先生

    北海道大学

  • 長崎啓祐 先生

    長崎啓祐 先生

    新潟大学

  • 藤澤泰子 先生

    藤澤泰子 先生

    浜松医科大学

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