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成長障害疾患分野SGA性低身長症の特徴、発育に及ぼす影響、そして「倹約型体質」について

昭和大学江東豊洲病院 小児内科 
准教授 中野有也先生

SGA(Small for Gestational Age)で出生した児が2歳までにcatch-upしない場合、小児期を通して低身長のまま経過する可能性が高いことが知られている。これをSGA性低身長症という。SGA児は将来の低身長のリスクのみでなく、生活習慣病のリスクも高いとされている。SGA性低身長症の特徴や発育に及ぼす影響、SGAで見られる倹約型体質などについて、昭和大学江東豊洲病院小児内科 准教授の中野有也先生にお話を伺った。

昭和大学 中野 有也先生

SGA性低身長症の3つの要因

日本でGH治療の対象となるSGA児は、出生時の体重及び身長が在胎期間ごとの出生時体格標準値に比べてその両方が10パーセンタイル未満で、かつそのどちらかが在胎週数相当の-2SD未満である状態と定義されている。このうち、暦年齢2歳までに-2SD以上にcatch-upしなかったケースをSGA性低身長症という。

SGA性低身長症の特徴について中野先生が説明する。「成長期を通じて背が低く、成人になってからの身長も低めになることが特徴として挙げられる。SGAとなる主な要因には、①母体側の要因、②胎盤や臍帯の要因、③胎児側の要因があり、それらが複合的に影響してSGAが生じ、その一部がSGA性低身長症になると考えられている」。

①母体側の要因として挙げられるのが、主に妊娠後期に発症することがある妊娠高血圧症候群などの妊娠期の母体合併症だ。そのほか、近年の日本で課題になっている「母親のやせ」による低栄養も要因として挙げられる。「2018年に出た科学雑誌『Science』では、日本では出生体重が減少しており、これが長期的な健康障害のリスクになる可能性が指摘された」(中野先生)。実際、2019年の「国民健康・栄養調査報告」によれば、BMI18.5未満の「やせ」に該当する成人女性は20代で20.7%、30代で16.4%だった。当然摂取カロリー(エネルギー)も少なく、1996年には1836kclだった20代女性の摂取カロリーは、2019年に1600kclへと激減している。「これは戦前よりも少ない。先進国の中でもかなり低く、社会への注意喚起が必要なレベルである。」

②胎盤や臍帯の要因としては、胎盤のサイズや位置の異常、多胎妊娠などがあげられる。また、③胎児側の要因としては、染色体異常、遺伝子異常、TORCH症候群やジカ熱といった感染症が挙げられる」と中野先生は説明する。

頭囲バランス、染色体検査などで鑑別

SGA性低身長症でGH治療の対象となるのは、先天性骨疾患、染色体異常などの先天異常がない場合である。そのため、GH治療を開始する前にまずはそのような疾患でないことを確認する必要がある。確認の際にポイントとなるのが発達の遅れや合併奇形の有無、頭囲の大きさ、および体格と頭囲のバランスだ。
「発達の明らかな遅れや合併奇形の存在は、先天的な基礎疾患の存在を疑うきっかけとなる。また、頭囲が正常で体格とのアンバランスさが目立つ場合には、骨系統疾患やSHOX関連疾患を疑うが、妊娠後期の母体因子などによって生じたAsymmetrical IUGR(子宮内胎児発育遅延)の場合、乳児期早期には同様の傾向があるので注意が必要。一方、頭囲と体格の両方が小さくバランスが悪くない場合には、いくつかの遺伝子異常や奇形症候群、胎児因子によるIUGRなどを考える。診断の際には頭囲と身長のSDの両方を確認することが肝要である」(中野先生)。

昭和大学では染色体検査もルーティンで行っている。「女児で低身長や成長障害が見られる場合は、その後の治療法が異なるターナー症候群との鑑別が必要になる。また、FISH(fluorescence in situ hybridization)法でSHOX遺伝子も確認している。これらの検査は3歳以降のGH治療開始前に行うことが多い。プラダー・ウィリー症候群の一部はFISH法だけでは診断できないが、筋緊張低下や過食といった症状から、小児科医であれば遺伝子検査の前に気づくことも多い。このほかの要因として家族性低身長もあるため、父母の身長から子どもの将来身長を予測し、思春期発来前ではあるがそこから顕著に乖離していないかも確認するようにしている」(中野先生)。

胎児期環境によるエピゲノム変化

SGAに影響を及ぼす胎児期の環境は、前述した低栄養のほか、妊娠中のストレスによる過剰なステロイドホルモン(鉱質コルチコイド)への暴露や、それらによるエピゲノム変化が指摘されている。中野先生は胎児期の環境変化に伴う影響についてこう解説する。

「胎児は低酸素や低栄養に対して、血液再配分などの循環調節や各臓器の発育抑制、糖やアミノ酸といったエネルギー代謝の調節、ステロイドやインスリンなどの内分泌系の調整を行うことで適応する。子宮内では、胎児にエピゲノム変化による遺伝子調節が起こるため、胎内環境に適した表現型は生後も維持されると考えられる。エピゲノム変化が生じる可能性がある感受期は複雑で十分解明されてないが、胎児期の環境変化は、主にエピゲノム変化を介して臓器サイズや細胞数に影響を与えていると見られる。こうしたエピゲノム変化には臓器特異性があるとともに、胎生期のどの時期かによってもメチル化の起き方(メチル化されている割合)の違いもあると言われている。染色体や遺伝子異常と異なり明確なメカニズムが解明されていない領域である」(中野先生)。

胎児期環境の影響で「倹約型体質」を獲得

さらに胎児期環境に対する適応メカニズムとして、SGAを含む早産・低出生体重児に「倹約型体質」を獲得させることがある。

「倹約型体質を獲得した子どもは生後も低栄養環境に適合するため、エネルギーの無駄遣いをしない『燃費の良い体質』=『太りやすい体質』になる。これに関係するとされるのが、成長のポテンシャル低下と体組成変化の2つだ。低出生体重児に低身長リスクがある理由は、体を大きくすると多くのエネルギーが必要になるので、成長のポテンシャルを抑えて体を大きくしなくなるためと解釈できる。また、SGAを含む早産・低出生体重児では筋肉量がつきにくい一方、体脂肪がつきやすい傾向がある。これも筋肉をつけないことでエネルギー消費を抑えるとともに、余分なエネルギーを脂肪に蓄積しようとすることの現れである。無治療のSGA性低身長症を含む早産・低出生体重児では、一見すると小柄で肥満には見えないが、体脂肪率が案外高いケースも少なくない」(中野先生)。

現在、こうした「倹約型体質」は、将来の低身長や代謝合併症リスクと関係していると考えられている(DOHaD学説)。中野先生は、「昭和大学では、胎児期や生後早期の食事や成育環境への介入などによる、将来の疾病リスク低減に関する研究を行うためにDOHaD研究班を立ち上げた。SGA外来ではSGA性低身長症の患者さんを長期間継続的にフォローするといった取り組みを行っている」と話す。

このDOHaD学説や昭和大学の取り組みについては、第2回で詳しく紹介する。

中野有也先生

中野有也先生

(なかの ゆうや)

2003年、昭和大学医学部卒業、同年、昭和大学病院小児科員外助教。2004年、町田市民病院小児科。2005年、昭和大学横浜市北部病院こどもセンター。
2007年、千葉県こども病院 新生児未熟児科、2009年、昭和大学病院小児科 新生児集中治療室、2010年、昭和大学病院小児科 新生児集中治療室を経て現職。

参考文献

  1. 小児内分泌学会 小児内分泌学会ガイドライン集(2018年刊) 35 中山書店 2018
  2. Normile D. Science. 3; 361:440, 2018 (PMID: 30072522)
  3. 厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査結果報告
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html
    2023年3月31日
  4. Yuya Nakano. J Atheroscler Thromb. 27(5):397-405, 2020. (PMID: 31866623)
  5. 中野有也 日本新生児成育医学会雑誌 31(2):337-340 2019

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