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女性医師がキャリアを続けられる職場づくりへ
-日本医科大学の取り組み-

日本医科大学武蔵小杉病院 小児科 教授(教育担当)
田嶋華子先生

女性の社会進出や活躍推進のため、2016年に「女性活躍推進法」が施行され、女性労働者の採用率や管理職率の向上が求められるようになった。さらに、2024年には「医師の働き方改革」がスタートし、復職支援や勤務体制の柔軟化などの取り組みも急務となっている。
一方で、女性は出産や育児などで離職せざるを得ず、キャリア形成に影響を及ぼすことも少なくない。そうした環境の下、自身も出産、育児というライフイベントを経験している日本医科大学武蔵小杉病院小児科教授の田嶋華子先生は、教育担当として後進の育成にあたるとともに、女性医師のキャリア支援にも注力している。日本医科大学における先進的な働き方改革やキャリア支援の取り組みについてお聞きした。

日本医科大学武蔵小杉病院 小児科 教授(教育担当) 田嶋華子先生

日本医科大学では休職から復職後まで
多様なキャリア支援制度を展開

厚生労働省の2022年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況1)によると、全国の医師数は約34万人で、そのうちの約24%が女性である。女性医師の数は2020年の同調査と比較して約5%増加しているものの、年齢ごとの就業率を見ると、医学部卒業以降は減少をたどり36歳ごろから回復する傾向にある。2) 就業率の減少について休職・離職の理由を調査すると、出産が約70%、次いで子育てが約40%であった。3)

女性医師の休職・離職の理由
出典:厚生労働省「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」3)

休職や離職によって医療従事者が不足する現場には業務調整などの影響があるが、仕事を離れる本人にとっても不安が大きい。休職の場合、休職中の業務が滞りなく進むか、職能を保てるかなど心配は尽きないが、一人で悩むしかないという場合もあるだろう。また、休職ではなく離職を考えなければならない場合もあるかもしれない。

このような状況を受け、日本医科大学ではしあわせキャリア支援センターを開設した。同センターは、働き続けることができる魅力ある職場体制の構築を目指して、付属病院・大学の教職員に対しキャリア継続の支援を行っている。
また、2019年には日本医科大学が代表機関となり日本獣医生命科学大学・アンファー株式会社と共同して、ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業に採択された。
以下に日本医科大学やしあわせキャリア支援センターが提供する制度を紹介する。

  • 医師事務作業補助者の採用:医師の負担軽減を目的として、診断書等の文書作成補助、紹介状下書きなどを代行 4)
  • 研究支援員配置事業:ライフイベントにより研究時間確保や研究継続が困難な医師・研究者の業務を支援する人員を雇用し、キャリアを途絶えさせないようサポート5)
  • イクボス宣言・ワークショップ:部下のワークライフバランスを考慮しキャリア応援をしながらも、管理職自らが仕事と私生活を楽しむという宣言と実行 6)
  • One Health メンター制度:研究や留学、ライフイベントと仕事の両立、仕事上行き詰まったときの対応などについてメンターに相談できる 7)
  • 5年後キャリアサポート:女性医師・研究者を対象に、5年後の自身のありたい姿の目標を設定し、定期的にメンターに相談しながら1年ごとに達成状況を確認 8)
  • 「妊活とキャリアを考えよう」などのイベント開催:日本医科大学内外から講師を招き、ライフイベントやキャリア形成に加え、英語論文の書き方など研究スキルアップなどに関わる情報を発信 9)
  • ベビーシッター派遣:子どもの急な発熱や残業、当直などで子どもの送迎が難しい時にベビーシッターを利用することができ、その費用の一部をしあわせキャリア支援センターが補助 10)
  • 院内保育所:日勤や夜勤、当直の間に子どもをあずけることができ、仕事と育児の両立における負担軽減や復職を促進 11)
    など

日本医科大学全体や管理職からのトップダウンによる働き方改革を推進

医師の働き方改革やワークライフバランスの実現が推奨されている昨今においては、キャリア支援制度を積極的に活用することが求められる。
まず業務負荷の増大による医師の長時間労働への対策として、田嶋先生は医師事務作業補助者の活用によるタスクシェアを挙げる。日本医科大学武蔵小杉病院では20名の医師事務作業補助者が活躍しており、補助を依頼する内容も広がっているという。「小児科では主に小児慢性特定疾病医療意見書や学校・保健所への指示書などの文案作成を依頼している。これらの書類は毎年更新であるため、書式変更や締切日の確認で審査機関への問い合わせを行う手間もあり業務負担が大きかった。これまでは医師が相当な時間を割いて対応していたが、医師事務作業補助者の方が代行してくださって助かっている」(田嶋先生)

また、医師事務作業補助者に依頼する業務について話し合いを重ねたことで、書類の文案の質が向上しているという。「診断書作成において、以前は前年度と今年度の共通部分を複写していただくことが主であったが、現在は電子カルテから検査データを読み取り、記載内容のアップデートまで対応してくれている。医師事務作業補助者は高いスキルが求められる仕事だと思う。とはいえ、無理難題をお願いしないよう、医師事務作業補助者のスキルに応じて業務をお願いするという配慮が必要だ」と田嶋先生はタスクシェアの実例を語った。

医師事務作業補助者による医師の負担軽減に加え、日本医科大学では、女性のキャリア支援や働き方改革の推進に向けて、組織としてトップダウンでの変革を図っている。産休や育休を取りやすい環境にあるか、復職しやすいかどうかは所属する組織の風土や職場のメンバーの考え方に左右されやすい。

田嶋先生の働く日本医科大学武蔵小杉病院では、女性医師に限らず男性医師も育休を取得したいと言える環境になってきたという。その背景には、イクボス宣言が有効であったのではないかと、田嶋先生は次のように語る。「仕事とプライベートを両立させる働き方が推奨されているとはいえ、その実現を自然の流れに任せることは難しい。大きな意識改革であるからこそ、イクボス宣言のように管理職自らがプライベートも大事にすると表明することが要となる。男女ともに子育てに理解を持つよう促す契機にもなるだろう」(田嶋先生)

宣言にとどまらず、柔軟な働き方や子育てがしやすい職場づくりを実現するためには、管理職が自らプライベートな話をすることも重要だという。「部下のプライベートにどこまで踏み込むかは絶妙な匙加減が必要だ。聞きすぎてもハラスメントになる恐れがある。そのため、まずは上司などの管理職が率先して自分のプライベートを何気なく話すことから職場の雰囲気を変えていく。例えば職場の上司が『今週末は孫が来るので早退する』という話をしてくれると微笑ましい気持ちを抱くとともに、共に働くメンバーとしてもプライベートを大切にしやすくなる。その他にも家での出来事など、たわいもない話がきっかけとなってコミュニケーションが密になることもある」と田嶋先生は話す。

日本医科大学武蔵小杉病院 小児科 教授(教育担当) 田嶋華子先生

田嶋先生が同病院の周産期・小児医療センターに赴任した2018年当時、子育てをしながら復職したのは田嶋先生一人だったが、現在では子育て中の女性医師が多く働いているという。女性医師のキャリアを途絶えさせないためにも、出産や育児によって一度休職や離職をしても、復職しやすい働き方の選択肢を用意することが重要だ。
「当院では、常勤・常勤の時短勤務・常勤ハーフ(助教の半分の週20時間勤務)・非常勤など、個々の状況に応じてフレキシブルな働き方を提案するとともに、職場の保育所も整備している。実際、これにより女性医師の復職率は増加している。医療現場の人手不足が深刻化する中では、女性医師が離職してしまうより、少しの時間でも共に働いてもらえることが職場の助けにもなる。出産・育児による休職を考えている、もしくは休職中の部下に対し、復職に向けた選択肢を提案できることが今後の上司には求められる。また管理職のみならず、全員が自分ごととして最新のキャリア支援制度について理解することが重要だ」と田嶋先生は説明する。
その一助として、日本医科大学では全教職員に対し『ライフイベントとともに働く』12)というテキストを配布し、しあわせキャリア支援センターから動画版も配信している。

日本医科大学武蔵小杉病院 小児科 教授(教育担当) 田嶋華子先生

また、しあわせキャリア支援センターが提供する情報や制度は多岐にわたるが、ワークライフバランス実現に向けて、どのような制度にニーズがあるかを調査しているという。「育児に対する支援が必要な人もいれば、介護との両立で悩んでいる人、家族の都合などで一か月間のみ当直を免除してほしい人などニーズはさまざまと考えられる。現在はベビーシッターの派遣や院内保育所の設置など、子育てをする人に向けた支援制度が多いが、最近のアンケート調査では、家事代行サービスのニーズが確認された。子育てに特化した制度であると子育てをしていない人にとっては不公平に感じられるかもしれないが、家事代行は誰もが利用できる。働くすべての人のキャリアを支える試みは、働きやすい職場づくりの追い風になると思う」(田嶋先生)

女性医師がキャリアを続けるためには、
共に働くメンバーとの支え合いが必要不可欠

女性医師のキャリア支援制度の活用、管理職などからの働き方改革の推進を実現するために、最も重要となるのは共に働く職場のメンバーの理解や雰囲気づくりである。自身も出産・育児を経験し、現在は教育担当として部下の育成にあたる田嶋先生は、働きやすい職場づくりに向けた考え方について次のように語った。
「自分は離職をせずに復職できたが、子育てによる離職の多くは依然として女性だ。しかし、自身の疾患や身内の介護などによる離職の可能性は誰にでもある。そしていつどのような理由で離職をするのかは、本人にもわからない。その可能性を自分ごととして皆が認識し、良い意味でお互い様という気持ちで支え合うことが第一歩ではないだろうか。また、産休や育休を取らないメンバーに対しての配慮も忘れてはならない。休職している人の分まで頑張って職場を支えてくれていることに対して、何かしらのインセンティブが必要だと思う。そのインセンティブは給与が良いのか、休暇が良いのかについては個人のニーズを踏まえて検討することが重要だ」(田嶋先生)

このように充実したキャリア支援制度を整備し、仕事とプライベートを大切にできる職場づくりが進んでいる日本医科大学武蔵小杉病院の小児科においては、既に半数以上が女性医師だという。田嶋先生も、休職または一度離職したとしても戻りたい、戻ることができると思えるような職場づくりが欠かせないと考えている。
「出産・育児などによる休職中にどのような不安があり、どのような支援を求めているかは個人個人で異なる。ただし、日頃のコミュニケーションで人柄や仕事への考え方を把握し、その人に応じた配慮でそっと支えることはできる。例えば、休職中、育児に専念したいと考えている人には休職中の連絡は控えるようにしている。そうではなく、予め復職を考えている人や休職中でも仕事のことが気になっていそうな人には、時々様子うかがいの連絡を入れたり、しあわせキャリア支援センターが提供するイベントを個別にメールで紹介すると安心感を持ってもらえる。時代に合わせて変化する働き方のニーズに対応したキャリア支援制度をつくり、それを活用して職場の皆で支え合うことが必要だ」と実例を交えながら田嶋先生はキャリア支援の在り方を語った。

日本医科大学武蔵小杉病院 小児科 教授(教育担当) 田嶋華子先生

田嶋華子先生

(たじま はなこ)

日本医科大学 武蔵小杉病院 小児科 教授(教育担当)
2003年、日本医科大学卒業。千葉県こども病院代謝科、日本医科大学武蔵小杉病院 周産期・小児医療センターなどを経て、2024年より現職。臨床遺伝専門医、糖尿病専門医、1型糖尿病患者と家族の会「つぼみの会」顧問医など。

参考文献

  1. 厚生労働省「令和4年(2022年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」4 2022
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/dl/R04_1gaikyo.pdf
  2. 厚生労働省「女性医師に関する現状と国における支援策について」7 2014
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000054006.pdf
  3. 厚生労働省 「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-(本文)」図表1-2-9 女性医師の休職・離職の理由 2022
    https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/01-01-02-09.html
  4. 日本医科大学 武蔵小杉病院 医師支援室 医師事務作業補助者(medical assistant)とは?
    https://www.nms.ac.jp/kosugi-h/section/ishishienshitsu.html
  5. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター 研究支援
    https://shien.nms.ac.jp/research
  6. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター イクボス
    https://one-health.jp/ikuboss/
  7. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター One Health メンター制度
    https://one-health.jp/support/329/
  8. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター 5年後キャリアサポート制度ついにキックオフ!
    https://one-health.jp/report/3469/
  9. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター イベント・セミナー
    https://one-health.jp/report/reportcat/report_event
  10. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター 冊子「ライフイベントとともに働く-動画テキストブック-」28 2024
    https://one-health.jp/webcms/wp-content/uploads/2024/04/240404_lifeevent.pdf
  11. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター 冊子「ライフイベントとともに働く-動画テキストブック-」32 2024
    https://one-health.jp/webcms/wp-content/uploads/2024/04/240404_lifeevent.pdf
  12. 学校法人日本医科大学 しあわせキャリア支援センター 冊子「ライフイベントとともに働く-動画テキストブック-」
    https://one-health.jp/report/4303/

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